インターネットやスマートフォンの普及により、企業と顧客の接点は実店舗や対面だけでなく、ECサイト、SNS、マーケットプレイスなどへと広がっています。顧客は複数の販売チャネルを行き来しながら、商品やブランドを比較・検討するようになりました。
こうした環境では、特定の販売経路に依存するリスクを抑えつつ、接点と販売機会を広げる取り組みが欠かせません。一方で、販売チャネルを増やすほど運営が複雑になり、業務負荷や管理コストが膨らむ側面もあります。
本記事では、マルチチャネル販売を検討している企業向けに、基礎知識から実践時のポイントまで詳しく解説します。

マルチチャネル販売とは
マルチチャネル販売とは、顧客に商品やサービスを提供するために、複数の販売チャネルを利用することを指します。
たとえば、実店舗での対面販売や自社のオンラインストアに加え、TikTok Shop(ティックトックショップ)などのソーシャルコマース、Amazon(アマゾン)などのマーケットプレイスを組み合わせて販売するケースが該当します。
マルチチャネルとオムニチャネルの違い
マルチチャネルとオムニチャネルの違いは、販売チャネル同士をどこまで連携させて運用するかにあります。マルチチャネルでは、複数の販売チャネルを並行して運用し、各チャネルごとに顧客と接点を持ちます。一方、オムニチャネルでは複数のチャネルをまたいで一貫したサービスや情報提供が行われます。マルチチャネルはチャネルの「数」を重視し、オムニチャネルはチャネル間の「つながり」を重視します。
オムニチャネル小売の例として、オンライン注文した商品の店舗受取や、SNSで見つけた商品やクーポンをカートに追加したまま、後からオンラインストアで購入するケースなどが挙げられます。

マルチチャネル販売で活用される7つの販売チャネル
1. 実店舗
実店舗は、自社の店舗で顧客が商品を実際に手に取り、スタッフとの対話を通じて購入を検討できる販売チャネルです。単なる販売の場としてだけでなく、顧客体験を提供する場としての役割も担います。たとえば、丁寧な接客や店内デザインを通じて特別な購入体験を提供することで、商品の品質やブランドストーリーが伝わりやすくなります。
2. マーケットとポップアップストア
マーケットやポップアップストアは、期間限定で出店する対面型の販売チャネルです。イベント会場、商業施設、地域のマーケットなど、多くの人が集まる場所へ出店することで、商品やブランドの認知を高められます。また、期間限定で出店する形式は、希少性が生まれやすく、来場する動機をつくりやすい点も特徴です。
販売時には、モバイル端末で利用できるPOSを活用するなど、決済や在庫管理をスムーズに行える体制を整えておくことが重要です。
3. 小売店
小売店(マルチブランド店舗)は、デパートやセレクトショップなど、複数のブランドの商品を取り扱う他社の店舗を通じて販売するチャネルです。小売店の集客力や信頼性を活かすことで、自社ブランドを知らない層にも商品を知ってもらう機会につながります。
一方で、売り場づくりや価格設定、在庫管理は小売店の方針に左右されるため、自社でコントロールできる範囲は限られます。
4. 自社ECサイト
自社ECサイトは、企業が自ら運営するオンライン上の販売チャネルで、商品やサービスを日本や海外の顧客へ直接販売できます。また、自社で運営するため、価格設定や商品ページデザインなどを柔軟に設計できます。さらに、購入履歴やアクセス状況などの顧客データを収集・管理できるため、マーケティングやサイト改善に活かせます。
5. オンラインマーケットプレイス
オンラインマーケットプレイスは、Amazon、楽天市場、メルカリなどに代表される販売チャネルです。すでに多くの利用者が集まっているプラットフォーム上に商品を出品できるため、集客の負担を抑えられます。
一方で、出品や販売にあたっては手数料が発生し、同カテゴリ内で価格や条件を比較されやすい点に注意が必要です。また、各マーケットプレイスには利用規約があり、販売できる商品や表現方法、顧客データの取り扱いなどに一定の制限が設けられている場合もあります。
6. ショッピング比較サービス
ショッピング比較サービスは、複数の小売事業者が提供する商品情報を一覧で表示し、価格や条件を比較できる販売チャネルです。たとえば、Google(グーグル)ショッピング では、商品を検索した顧客が比較結果を確認し、購入のために各ECサイトへ移動します。
価格情報に加えて商品仕様やレビューが表示される場合もあり、購入前の検討材料として活用されます。
7. SNS
SNSは、商品やブランドの情報発信から販売までシームレスにつなげられるチャネルです。Facebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)、TikTok(ティックトック)などの投稿や動画を通じて商品を紹介できます。ECサイトへ誘導するだけでなく、TikTok ShopやInstagramショッピングのように、SNS上で商品を閲覧し、そのまま購入まで完結できるサービスもあります。

マルチチャネル販売のメリット
マルチチャネル販売の主なメリットは以下の通りです。
- 顧客との接点を最大化できる:顧客は属性や購買目的によって利用する販売チャネルが異なるため、複数のチャネルに展開することで、顧客との接点を逃しにくくなります。
- 多様な購買行動に対応できる:SNSで商品を知り、検索エンジンで詳細を調べ、動画やレビューを参考にするといった購買行動の流れに合わせて、顧客との接点を維持できます。
- 外部の集客力を活用できる:オンラインマーケットプレイスや小売店などの外部チャネルを活用することで、自社だけでは獲得しにくい顧客層に商品を届けられます。

マルチチャネル販売の課題
アカウント管理の負荷が増える
複数の販売チャネルを運用すると、アカウント管理や各種ルール対応にかかる業務負荷が増えます。たとえば、すでに自社ECサイトを運営している企業が新たにマーケットプレイスへ進出する場合、アカウント登録に関する書類業務や、出品ルール・利用規約の確認が必要になります。
さらに、複数のマーケットプレイスへ出店すると、プラットフォームごとに異なる運用ルールや規約変更への対応が求められるため、管理の手間は一層増大します。
在庫管理が複雑になる
複数の販売チャネルへ出品すると、在庫状況を正確に把握することが難しくなります。
たとえば、実店舗と自社ECサイトの両方で商品を販売している場合、それぞれの販売状況をリアルタイムに反映させる必要があります。実店舗で最後の1点が売れた直後に、自社ECサイトで同じ商品が購入されると、在庫切れによるキャンセルや返金対応が発生する恐れがあります。
さらに、複数のマーケットプレイスに出品するなどして販売チャネルが増えるほど、注文が重なるリスクも高まります。その結果、売り越しを防ぐための在庫調整や確認作業に追われ、在庫管理にかかる手間も大きくなります。
顧客体験を管理しにくくなる
外部チャネルでは、自社ECサイトや実店舗とは異なり、顧客体験をコントロールしにくくなります。たとえば、小売店では売り場構成や接客方法が店舗側に委ねられるため、意図した体験を提供できない場合があります。また、マーケットプレイスでも、商品ページのデザインや表示方法はプラットフォームの仕様に左右されます。
外部チャネルでの体験は、たとえ自社が直接関与していなくても、顧客からは自社ブランドの体験として受け取られることがあります。そのため、チャネルごとの差が生じると、ブランドの世界観に一貫性がなくなるおそれがあります。

マルチチャネル販売のためのヒント
1. 自社ECサイトを軸にしてから拡大する
マルチチャネル販売に取り組む際は、まず自社ECサイトでの販売体制を整えることが重要です。自社ECサイトで注文処理、在庫管理、配送といった基本的な業務の流れを確立してから外部チャネルへ展開すると、運用上の混乱を抑えやすくなります。その際は、在庫管理システムなどを活用し、在庫情報を連携させておくと安心です。
2. SNSは情報発信から始める
SNSでの販売を検討する場合は、いきなりショップ機能を利用するのではなく、まずはコンテンツ配信を通じた情報発信から始めるのがおすすめです。投稿への反応やコメントの内容を確認することで、各プラットフォームと自社商品の相性を見極めやすくなります。
たとえば、InstagramよりもTikTokでの投稿に対する反応が良い場合は、まずはTikTok Shopを活用した販売に取り組むといった判断が可能になります。
3. ブランド表現の一貫性を保つ
マルチチャネル販売では、どの販売チャネルでも一貫した情報や印象を伝えることが重要です。たとえば、自社ECサイトとSNSでの言葉遣いや画像の雰囲気を統一することで、ブランドアイデンティティを保った運用が可能となります。
小売店などの外部販路においても、商品名や価格などの基本的な情報については、取引先と協力して統一してもらいましょう。
4. 自社の運用キャパシティに合わせて展開する
チャネル数を増やすこと自体を目的とせず、自社のリソースに見合った規模で展開することが重要です。たとえば、少数のオンラインマーケットプレイスやSNS販売から始めることで、注文処理や問い合わせ対応に関するノウハウを無理なく蓄積できます。このように段階を踏むことで、対応の遅れやミスを防ぎやすくなり、結果としてブランドへの信頼を守ることにもつながります。
まとめ
マルチチャネル販売は、顧客の購買行動が多様化する現代において、有効な販売手法のひとつです。顧客は、検索エンジンやSNS、オンラインストア、実店舗など、さまざまな接点を行き来しながら購入を検討しています。そのため、複数の販売チャネルを活用することで、商品やブランドと出会う機会を広げ、販売機会の最大化が期待できます。
一方で、ただチャネルを増やせばよいわけではありません。自社ECサイトを軸に段階的に展開し、ブランド表現の一貫性や運用体制とのバランスを意識することが重要です。自社に合った形でマルチチャネル販売を取り入れ、無理のない成長をめざしましょう。
マルチチャネル販売に関するよくある質問
マルチチャネルコマースとは?
マルチチャネルコマースとは、企業が実店舗や自社ECサイト、オンラインマーケットプレイスなど、複数の販売チャネルを併用して商品やサービスを販売する仕組みのことです。
マルチチャネル販売はなぜ重要?
マルチチャネル販売が重要なのは、顧客が利用しやすい販売チャネルで接点を持ち、買い逃しを防ぐためです。また、マーケットプレイスや小売店の集客力を活かすことで、自社だけでは届きにくい顧客層にも商品を届けられます。
マルチチャネル販売の企業例は?
アパレルブランドを展開すyutori(ユトリ)は、Instagramと自社ECサイトを軸にブランドを急成長させた代表例です。こうした取り組みを通じて成長した一部の人気ブランドの中には、実店舗の展開に力を入れているケースも多く見られます。
文:Hisato Zukeran





